全静脈麻酔 TIVAとは
一般病院で行われる耳鼻咽喉科の全身麻酔は、自発呼吸を完全に止め挿管し、人工呼吸器(機械)により呼吸させる麻酔法を示します。したがって、心臓と肺に多大な負荷をかける(俗に言われるのは数百メートルの全力疾走と同じ負荷)ため、麻酔覚醒後に経過観察のため1泊程度の入院が必要です。
当院における全静脈麻酔は広義では全身麻酔の範疇ですが挿管はいたしません。全静脈麻酔(total intravenous anesthesia:TIVA)というのは,吸入麻酔を使用せずに麻酔の3要素である鎮静,鎮痛,筋弛緩を,経静脈投与薬剤でコントロールする全身麻酔法です。当院の手術では筋弛緩は必要ないためその薬剤は取り除いた静脈麻酔をTIVA(ティーヴァ)と呼んでいます。
静脈麻酔薬は濃度が徐々に濃くなるにつれて傾眠(眠くなる)⇒ 意識消失(記憶が無くなる) ⇒ 呼吸停止(呼吸サポートが必要)の経過をたどります。そこで意識消失の段階で自発呼吸が安全に確保できるよう静脈麻酔液を調整し、手術を受けていただきます。当院では筋弛緩剤を使用せず自発呼吸を残すことができるため、心臓と肺には比較的小さな負担ですみます。全ての患者様は当日中にご帰宅いただいても麻酔による合併症の心配はほぼありません。また当院では吸入麻酔薬やプロポフォール等を使用していないため、重篤な合併症「悪性高熱症」を引き起こすリスクはきわめて低いです。
当院の麻酔法では静かに眠りながら痛みを感じにくい状態を、一定時間保持することができます。また気になる術後の疼痛ですが鎮痛の効果が約半日程度続くように薬液量を調整しています。また術後は4~5時間かけてゆっくり覚めていただくため、疼痛が急激に襲ってくるような事はなく、一般的な全身麻酔に比べ安らかな目覚め方が可能です。
玉虫色のTIVAですが短所も多少あります。
まず重症無呼吸症の患者さんは傾眠の状態で無呼吸が起こってしまうため、挿管しない当院の麻酔法であるTIVAを使用できません。したがって術前の無呼吸検査により無呼吸がある患者様には無呼吸の治療を優先することをお勧めしております。
また使用している全ての薬剤静脈から注入され肝臓と腎臓で秒単位で分解排泄されていくので、肝機能と腎機能が悪い方もTIVAを使用できません。肝臓の健康状態を保つために手術日2週間前からの禁酒も必ず守っていただきます。